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【AtCoder】株式会社電通から3億円の投資を受けた話

タイトルの通り、本日3億円の投資を受けました。

 

prtimes.jp

 

「よくわかんないけど凄い!」ってポジティブに捉えてもらえるか、「AtCoderがコントロールされちゃいそう!怖い!」ってネガティブに捉えるか、両極端に分かれるニュースかなと思ってます。

はじめに言っておくと、AtCoderの評価はかなり高くしてもらえたので、この額の投資では、そんなに大きな影響力はありません。自分がこうやって好き勝手ブログを書けるくらいには自由です。なので、「AtCoderが変わっちゃう><」みたいな心配はしないで大丈夫です。

凄くなるかどうかはここからどう展開していくかによって決まると思ってます。そもそもAtCoder社が億単位の投資を受けることが可能なポテンシャルがあるのは自明ですし、そんなところで凄いって言われても困ります。ということで、現状のAtCoder社の状況や今後の展望について説明していきたいと思います。

 

AtCoder社の現状について

(弊社をよく知ってる人はこの章は飛ばして大丈夫です)

AtCoderは、プログラミングのコンテストを毎週開催するWebサービスであり、現在10万人以上が登録しており、そのうち3万人程度の参加者が、リアルタイムのコンテストに参加したことがあるユーザです。参加ユーザは順調に増加しています。

 コンテストをはじめて7年目になりますが、3年前に新レーティングシステムが発足して以来、順調にユーザ数が増えています。ネットゲーム気分で参加しているユーザが多いですが、毎週オンラインのプログラミングコンテストに参加するユーザは、IT人材市場において大きな価値があり、非常に多くの企業が注目を集めています。

具体的な例を挙げると、以下のような企業がコンテストを開いています。

年間20社ほどスポンサーとなって、プログラミングコンテストを開いているのがAtCoderです。そもそもスポンサードされていないコンテストにおいても3000人前後の人が集まるので、どの企業がスポンサーになっても確実に人が集められる、というのが、AtCoderの強みの一つになっています。

 

AtCoder社の強み・弱み

まずはAtCoderのポテンシャルから見ていきます。といっても、今回は資本提携の話なので、日本のITにどれだけ貢献するか、とかではなく、会社としてどれだけ売り上げを上げる余地があるか、という話です。実際に以下に書くビジネスモデルを採用する、という話ではありません。

AtCoderは現在10万人以上のユーザを抱えており、同時に4000人の参加者がコンテストに参加するサービスとなっています。彼らは学生が多く、IT企業へ就職することが期待できます。

AtCoderでは手数料モデルを採用していませんが、例えば職業紹介において手数料を取るモデルなどを採用した場合、新卒一人当たり50万円くらい、中途だと250万円くらいの紹介料を貰えます。細かい計算は省きますが、現在のユーザ数でも、年間数億円の売り上げを得るのに十分なユーザを抱えていることが分かります。

(参加者さんへ:ということなので、「AtCoderに貢献しよう!」って感じで無理をしてくれなくても大丈夫です。AtCoderを経由して、コンテスト開催企業に興味を持ってくれるだけで、十分AtCoderに貢献してくれてます。経営的な心配もないので安心して無料でコンテストを楽しんでくれて大丈夫です。)

 

逆に弱みは何か、というと、実際に売り上げに繋がっていない、という点があります。この原因は色々あるんですが、

  • 就活の母集団形成には大きな影響を与えるが、そこから先をフォローしていないため、売上に大きく繋げ辛い(=単価が安い)
  • AtCoder自体がベンチャー企業であるため、大手企業の決裁権を持っている人間にアクセスすることが難しい(=仕事が取ってこれない)
  • 黒字経営はしているものの、資本が大きくあるわけではないので、開発要員・営業要員等を雇うことが出来ない(=身動きが取れない)
  • 社是が「楽しいプログラミングコンテストの布教」であるため、売上上昇の優先度が低い(=労働力が割けない・稼ぐのがめんどい)

とか、まぁ色々あります。これらを解決するために、今回の投資の話が出てきたわけです。

 

電通から投資を受けた理由

AtCoderは現状かなり順調なので、いろんなベンチャーキャピタルさんやら投資会社さんから声をかけたりしてもらってます。なので、いろんな会社を比較する機会がありました。

で、多くの会社さんが「一緒に連携したらシナジーがあるのでぜひどうですか!」みたいな感じで連絡をくれるわけです。それはそれでまあいいっちゃいいんですが、正直、そんな不確かな状態で株を渡せるかって言ったら、渡せないわけですよね。最初はアイデアレベルでいいんですけど、そこから企画にレベルアップしてもらえないと、やっぱり手を組みにくいわけです。アイデアは出てたから投資を受けたけど、実際は具体的な企画に落とし込めませんでしたー、じゃ話にならないわけで。 

  

さて、電通は超有名な会社なんですが、競技プログラマだと知らない人もいると思うので、一応会社概要をWikipediaから抜粋してみます。

電通 - Wikipedia

日本国内2位の博報堂DYホールディングスの売上高の約4倍と名実ともに日本最大の広告代理店であり、「広告界のガリバー」の異名を持つ。
近年では海外の広告会社を積極的に傘下に加えることにより規模を拡大し、広告代理店グループとして世界5位の規模となっている。

まぁ滅茶苦茶大きい広告代理店の会社さんだと思って貰えれば間違いないです。広告代理店って言うのは、とてもとても雑に言うと、色んなメディアの広告枠を売っている企業さんだと思って貰えれば良いです。
最近は非広告領域事業にも積極的にチャレンジしているようです。

 

さて、最初は資本提携とかをするつもりは全くありませんでした。そもそも最初の話って「AtCoderのITコンテストとesportsを絡めよう!」とかそんなだったので。で、雑談レベルで「こんなことを出来たらいいな」ってアイデアをポンポン投げまくったわけなんですが、めちゃめちゃ検討してもらえて、色んな企画を作ったり、営業回ったりしてもらえる関係になっていったわけなんですよね。

その筆頭が日経さんの開いた、全国統一プログラミング王決定戦。あれ、電通さんが繋いでくれて、電通さんが諸々やってくれた案件なんですよね。コンテスト自体は日経さんとAtCoderの共催なので、電通さんは完全に裏方に回ってくれたんですが、電通さんがいなかったら絶対に実現していないコンテストです。

他にも電通さんが繋いでくれて実現しそうな、大企業さんとかが主催のコンテストがたくさん予定されていて、もうこれはがっつり手を組むしかない、って状態になったわけです。

 

今回の提携に関係ありそうな特徴をざっくり纏めると、

  • 商品を販売する営業力がある。
  • 適当にアイデアを投げるだけで企画にしてくれるだけの企画力がある。
  • 企画を実行するマンパワーがある。
  • 大きい会社だったり国だったりの偉い人との繋がりがある。

 みたいな感じです。今の時点では大企業のコンテストを開くって連携だけですが、これでますます連携が強化されると、

みたいに、夢が広がることがいっぱいあります。当然3億円しか貰ってないので、これ全部をすぐに実現ー、みたいなことにはならないんですが、めちゃめちゃ面白い話だと思います。

少なくとも、これまで笑い話でしかなかった様々なことが、今回の連携強化により、本当に実現可能かもしれない、と思える状態になりました。

Twitterと口コミでの拡散だけでここまで大きくなった会社だけど、ついに搦め手を覚えたというか。いや、自分がやってるのが搦め手で、今回から始めるのが王道と言うのが多分世の中的には正しいのだけど。

 

投資を受けた際のリスクに関して

さて、資本提携ということで、例えば「会社乗っ取られちゃうんじゃないの!?」みたいに思っている人がいると思うんですが、全然そんなことはありません。理由はいくつもありますが、

  • 株の割合が少ない。拒否権を行使するのに必要な株の半分もないので、何か妨害される心配もほぼない。
  • そもそも資本提携を提案した担当者さんが、当初明らかにM&A等に関する知識を持っておらず、それを目的に行動しているとは思えない。

みたいなのがあります。あとぶっちゃけ、会社乗っ取ろうとしても、この会社自分がいないと回るわけないよね??ってのも大きな理由の一つです。

ということで、AtCoderの社是が「楽しいコンテストを提供する」であることは変わりません。担当者のAtCoderへの理解が滅茶苦茶高いので、正直あんまり心配ありません。

ってか、電通の社員さんが自分のTwitterめっちゃ見てるの面白くないですか?競プロ文化をかなり深く理解してもらえててほんとにすごい。 

 

あとはまぁ、投資を受けて事業拡大したけど、ダメだったパターンでしょうか? これはまぁ自分の手腕不足なんでどうしようもないですが、

 

AtCoder社の今後の展望

ということで、お金も入って動けるようになったので、会社拡大を目指していきたいと思ってます。コンテストも出来るだけ増やしたいし、色んなイベントも増やしたい。当然お金を入れてすぐに成果が出るわけじゃないので、ちょっとタイムラグが出ると思いますが。

イデアは色々あります。AtCoderのグランドデザインを語るには、ちょっとこの記事で書くには長くなりすぎますが、超ざっくり書くと

  • AtCoderのゲーム性は絶対に崩さない。これが崩れたらAtCoderが死ぬので絶対に守る。
  • それを踏まえた上で、中高生から社会人まで、ずっとAtCoderを楽しめる、AtCoderが人生の役に立つポジションに立つ

というのを、これまで以上にやっていく、って感じになると思います。コンテストも増やしたいし、教材も増やしたいし、イベントも増やしたいし。今の成績が評価されるようになってほしいし、今のAtCoderで培ったアルゴリズム技術を、どうやって活かせるかを学生に教えていかないといけない。当然受け入れ側の企業にも、AtCoder人材をどうやって活用していくのかを教育していかないといけない。

これまでは学生側にしかアプローチできなかったのが、これからは企業側にもいろんなアプローチが出来るようになるわけで、考えることはいっぱいです。

少なくとも、ユーザにしろ、取引先にしろ、従業員にしろ、AtCoderに関わった人が不幸にならないような、そんな会社にしたいと思います。

今後とも応援よろしくお願いします!